『 距離を縮める 』

真っ暗な朝5時頃、寒さに震えながらガラガラのセブンイレブンで眠気覚ましのコーヒーを買い、車で向かったのは千葉県の多古町(たこまち)という町です。

 

『多古町』

千葉県の北東部、香取郡にある多古町は成田空港からバスで20分くらい、多古町という名前の由来は、昔は湖や沼が多かったからという多湖、また農民を意味する田子からきたとも言われています。

数々の映画やドラマのロケ地としても知られる多古町は自然に恵まれた美しい町であり、また”幻のお米” や “おかずのいらないお米” ともいわれる多古産こしひかりの多古米や、独特の粘り気があり食べるとリピーターになる人も多い大和芋などの産地としても知られています。

成田空港から駆けつけた幸田さんと予定より早く合流したので、多古町の行ってみたかった場所に行ってみました。

それは旧興新小学校です。1881年、今から138年前に出来た旧興新小学校は映画「永遠のゼロ」やNHKの連続ドラマ「梅ちゃん先生」のロケ地としても使われたことがある歴史ある史跡です。

田んぼの間にある細い凸凹の坂道を登っていくと、そこに旧興新小学校がありました。そしてとっても優しくフレンドリーなゲートボールをされている方々がいました、ご挨拶をして少しだけ見学させていただきました。

 

校舎の中には入れないですが、昔ここで学んでいた学生さんを思い浮かべたり、戦争も乗り越えて今もなおここに建ち続けることを考えるとあらためて歴史を感じました、またよそ者が来たと思ったのか分かりませんが、2人をジーっと見ていた猫もフレンドリーでした。

 

そして待ち合わせの時間に来ていただいたのは多古町役場の都市整備課の木川 祥宏さんです。遠方から毎回のようにちゃんとちゃんとの学校にも参加していただいた木川さんのおかげで、今回多古町に来ることができました。

多古町地域包括支援センターの平野 香さんをご紹介していただき多古町の地域包括ケアの取り組みについて聞かせていただきました。

 

『タコ足ケアシステム』

高齢化率とは総人口に占める65歳以上の割合ですが、人口約15000人の多古町は、2017年段階で高齢化率33.7%、全国平均の27.7%を上回り、(日本は皆そうですが)今後はさらに高齢化率も上がると予測されています。

どうしても介護職の方の人手が足りなく、その負担の中で疲弊されている介護従事者の方々も多くいらっしゃるなど、少子高齢化のいま、同じように他の多くの地域も抱える問題が山積みです。

従来の縦割り型のようなやり方では解決しない問題に対して、組織やしがらみを超えて活動されている方が今回お会いできた平野さんです。平野さんは優しく柔らかい物腰ですがお話を聞いていると、常に問題意識をもって様々な分野で活動されているスーパーな方でした。

その平野さん達がスタートした独自の取り組みが『タコ足ケアシステム』です。 

様々な地域の課題を立場や年代を超えて解決しようということは、素晴らしくて理想的です、ただ現実的には難しいのではと私は思っていました。

タコ足ケアシステムは行政に頼らず、あくまでゆるく楽しく、タコの足のように色々な壁を滑らかに乗り越え、その吸盤で人と人を繋いでいくシステムです。

そこにはリーダーになる人はいなく主人公は町の住民の一人一人なんだと感じました。リーダーは課題であるテーマによって軟体動物のようにその姿を変えます。

平野さんから今回ご紹介いただいたのは『とらや』さんです。 

そこには90歳になる女性が店番をしていて、そこによくお友達が来てお茶を飲むようなんですが、そこからこれをもとにしてランチ会を開催するようになったようです。そこには若い人や役場の人、高齢の方も参加されるようです。

そこでは年代を超えた交流があり、1人暮らしで丸一日誰とも会話をしない人も多くいる時代ですから、高齢の方にとっても1人で自宅で食べる食事とみんなで楽しく食べる食事では、その差は歴然ではないでしょうか?

こういう試みは決してすぐには数字には現れないので、成果としては分かりづらいことかもしれませんが、そういうことの積み重ねが助け合う町を作っていくものだと思いました。

私達のプロジェクトもゆるくまじめにというテーマでやっていたり、3人でスタートしたり、何か偶然とは思えない平野さんとの出会いに感謝しながら、『とらや』さんにご挨拶に寄りました。 

そして、幸田さんの昔からの知り合いの方がやっていらっしゃるバンブーさんというラーメン屋さんに、木川さんと幸田さんがランチに行くというので、私は別れて車に乗りました。

 

 

『最前線』

ラーメン屋さんに後ろ髪を引かれつつ、朝買ったコーヒーの残りを飲みながら出発しました。 

予想通り渋滞にも巻き込まれ、予定した時間からは3時間近く遅れて着いたのは東京の町田です。久しぶりに2人に会うためです。

古くからの友人でもある2人の女性はいま、介護現場の最前線にいます。現場で感じることなどを聞かせてもらうためにという理由が半分、それから大好きな2人に久しぶりに会うためという理由が半分です。

介護職はどうしても離職者も多くて、なかなか思うように休みも取れない2人とタイミングよく会うのはなかなか難しく、貴重な時間です。

 

『現場の人にはかなわない』

介護の現場では引っかかれたり噛まれたりすることはしょっちゅうですよ、急所を攻撃されたりベッドの鉄柵を折ったりする人もいて大変なこともあるけど、でも介護の仕事は好きだし楽しいですよと話をしてくれました。

あらためて最前線の現場で働いている2人を尊敬して、こういう人達のおかげで社会がまわっているんだ、やっぱり現場の人にはかなわないと思いました。

 

給料が安い介護の世界では仕事の合間にアルバイトをしている人もたくさんいるようですから、なんとも言えない気持ちになります、何か出来ることもあるはずです。お金よりも大切なことに対してこれだけ頑張っている人に対して、、楽しく話を聞いて2人と別れ仕事の打ち合わせに向かう途中で彼女達からメールが来ました。

 

「今の仕事は、何も知らないご家族とかとも良く関わるので、介護の職場意識と、介護ってことに関わりがなかった方々との距離をとても感じます。

ひろのうさんに、面白おかしく、この距離を縮めてもらいたいです!!

その距離を縮められれば、介護が必要な状態になることを恐れず、
出来ることが1つでもあることの素晴らしさを感じながら、介護も楽しめると思っています。

噛まれても、たたかれても、重度の認知症の方でも、嫌だと伝える能力が残っているということは喜ばしいことでもある、という感じでしょうか。」

とてもズシンと心に響いたメールでした。どうしても介護の世界と私達が暮らす日常生活の世界とでは距離があるということですが、超高齢社会のいま介護は遠い世界の話ではなく、ある日突然に誰にも関わってくることもあるとても身近なことです。

ただそう思っている人は私も含めてですがほとんどいなく、現場の方やそこに関わる人達とはかなりの距離があると思います。その距離を縮めることは介護現場だけでは難しいことだと思います。

今回の多古町のタコ足ケアシステムは様々な人と人との距離を近づけて問題に対して取り組んでいると思いました。私達のプロジェクトもその距離を縮めることに繋がっていくようにしなければと思い燃えています。

変わらなければならないのは高齢者や介護現場ではなく、私達なのではないでしょうか?

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です